甲状腺がん
まず、甲状腺と聞いても、胃や腸、肝臓などと違ってあまりなじみのない臓器かもしれません。
甲状腺は首の前にあり、チョウが羽をひろげたような形をしていますが、腫れたり、しこりができたりしない限り、普通は皮膚の上からはっきり触ることはありません。
しかし、甲状腺は人間にとって他の臓器と同様に大事な働きをしており、もし甲状腺がなければ、人間は大人に発育できず、大人になってからも体に変調をきたします。
甲状腺は甲状腺ホルモンを出す器官であり、甲状腺ホルモンは体の維持と代謝にとってなくてはならないものだからです。
ですから残念ながら病気で甲状腺をとった方は一生、甲状腺ホルモン薬、および場合によってはカルシウム薬を飲み続ける必要があります。
甲状腺がんは女性に多い病気のため、前は乳がん検診と一緒に甲状腺がん検診を行っていました。しかし、乳がん検診が、触診とレントゲン撮影(マンモグラフィー)による二本立てによって早期発見に貢献しているのに対し、甲状腺がん検診は触診が主体であり、その発見率が非常に低いため、最近、検診項目から外れました。
大きな甲状腺のしこりであれば、首を触れば分かります。かなり大きくなると、甲状腺の裏にある気管や食道、神経などを圧迫するので、首に違和感がでてきたり、息が苦しくなったり、食事の飲み込みが悪くなったり、声がかすれてきたりするので、受診するきっかけになります。
しかし、検診では、そういった症状がでない、まだごく小さいしこりを発見していかなければならないので、技術的に大変難しくなります。
実際、甲状腺がんで手術を受けられている方の多くは、別の検査で偶然見つかっています。乳がん検診でひっかかって、精密検査をしたときに偶然見つかったり、甲状腺の別の病気で定期的に通院していて、たまたま超音波検査で発見されたり、最近、全身のがん検診につかわれているPET(ペット)検診で見つかる方もいます。
なかには、初めにリンパ節の転移や、肺の転移、骨の転移が見つかり、その後の精密検査で甲状腺がんが見つかる方もいます。このようなことで、あまり有効な甲状腺がん検診の方法はないのかもしれません。
同様に、有効ながん検診の方法がないがんに、膵(すい)がんがあります。膵がんは、かなり大きくなって初めて症状がでますが、膵臓が体のすごく奥にあるため検診は難しいと言われています。
しかし、甲状腺がんが膵がんと大きく違う点があります。それは、膵がんがとても進行の早いがんで、生命を脅かす病気であるのに対し、甲状腺がん全体の90%を占める乳頭がんはとても進行の遅い病気です。
甲状腺がんのごく一部には、未分化がんといって、進行の早いものもあることはありますが、大部分は、ゆっくり進行するもので、大きさが5ミリ以下の甲状腺がんは治療がいらないと言われているほどです。
甲状腺がんに対する治療として、手術がまず行われます。手術は、耳鼻科医が行う病院もありますが、現時点では外科医が行うところの方が多いと思います。早期の甲状腺がんは手術でがんを取り去ることで、完治が望める、という特徴があります。
残念ながら、リンパ節にたくさん転移していたり、肺や骨などに転移していたりした場合は、甲状腺の手術をした後、放射線の治療をします。効果があるうちは、放射線の治療を繰り返し行います。甲状腺がんに有効な抗がん剤はないそうです。
甲状腺がんはどうしてできるのでしょうか。
放射線をあびるとなりやすいとか、遺伝が関係しているなどと言われています。確かに、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の後、近隣で甲状腺がんにかかる人が増えたと言われており、放射線被曝(ひ・ばく)と甲状腺がんは関係あると考えられます。
また、頻度は少ないですが、遺伝が関係しているタイプの甲状腺がんもあります。それは髄様がんとよばれている種類のうち、約40%を占めると言われており、遺伝子を調べれば分かります。
もし、そういう遺伝子を持っていて、将来、甲状腺がんが発生すると分かった場合には予防的に手術で甲状腺をとる必要があります。
しかし、多くは放射線被曝もせず、遺伝的素因もない方が甲状腺がんになっており、大部分の甲状腺がんは原因不明と言わざるを得ません。
甲状腺がんは、比較的若い方から中年の方まで広い年齢層(30~50歳)で発見され、1千人に1人の割合と言われています。しかし、甲状腺がんの死亡率は人口10万人当たり0・8人であり、全悪性腫瘍(しゅ・よう)による死亡数の0・4%と少ないことが分かっています。
つまり、甲状腺がんにかかった方100人のうち約1人しか、甲状腺がんで亡くならないということです。
言い換えれば、甲状腺がんが見つかっても、きちんと治療(手術)がなされれば、きちんと治すことができることを示しています。
前述のように、甲状腺がんの検診は難しいかもしれませんが、甲状腺というものは皮膚のすぐ下にある臓器で、大きなしこりであれば自分の手で触ることができます。
乳がんでは、今、自己検診といって自分で乳腺をチェックすることがとても浸透しつつありますが、乳腺のチェックに続き、さらに首の前(甲状腺)もチェックしてもらえれば一石二鳥と言えると思います。
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