肺がん
日本人は75歳までに男性の約2人に1人、女性の約3人に1人が何らかのがんに罹ると言われています。その中でも肺がんは治療が難しく死亡率が高いがんの1つで、治療効果と安全性の高い治療法が望まれています。
喫煙者の検診は胸部X線写真だけでは不十分。喀痰細胞診の検査をプラスして
がんによる日本人の死亡率をみると、臓器別では肺がんが男性で第1位、女性で第2位となっています。1年間に約5万人が肺がんで死亡しています。5年後には肺がんで亡くなる人の数は倍増し、10万人を超えると予測されています。その理由として、若い女性の喫煙率が上昇していることやアスベストの影響などが挙げられます。
喫煙量が多いほど、そして喫煙開始年齢が低いほど、肺がんの発生率は高くなります。また胸膜中皮腫の原因物質として問題になっているアスベストは、発がん物質で、これが原因で発がんするのは、数十年後など、かなりの時間が経過してからです。
肺がんには小細胞がんと非小細胞がんがあり、非小細胞がんはさらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんの3つの細胞型に分かれます。喫煙と関係する扁平上皮がんや小細胞がんは肺の入り口に近い気管支に、喫煙と関係しない腺がんは肺の末梢に多く発生します。
肺がんが発見されるきっかけは検診発見、他疾患観察中発見、有症状発見の3つがあります。
最も早い時期に発見される可能性があるのは検診です。
腺がんは胸部X線写真で発見される確率が高いのです。一方、扁平上皮がんは胸部X線写真では発見されにくく、喀痰の細胞を調べる検査(細胞診)で発見される確率が高くなります。
検診で肺がんの発見率を高めるには、胸部X線写真だけでは十分とは言えません。喫煙者には喀痰細胞診を追加する必要があります。また最近ではCTの発達により、以前は困難だった前がん状態やごく早期の肺がんが発見される機会も増えてきました。日本ではCT検診で約1%という高い肺がん発見率の報告もあり、有用性の検証がおこなわれています。
2つめは、他の疾患の治療中に偶然発見される場合で、これも初期発見の可能性があります。
3つめは、症状が出て受診して初めて発見される場合です。症状が出てから発見される場合が最も治療成績が悪くなります。
肺がんの一般的な症状は、咳、血痰、呼吸困難などですが、肺がんに限った症状ではありません。がんの発生部位によりほかにもさまざまな症状が現れます。がんが胸壁に浸潤すると背中や胸、肩の痛み、血管に浸潤すると上大静脈症候群、神経に浸潤するとホルネル症候群などが出現します。上大静脈症候群では上大静脈が圧迫され、顔や腕の浮腫、脳浮腫による頭痛や痙攣、呼吸困難などがみられます。ホルネル症候群では交感神経が障害され、瞳孔が縮小したり瞼が下がったりします。
治療法はがんの病期と患者の体力で決まる。手術の決め手は「1秒量」
肺がんの主な治療法には、手術、化学療法、放射線療法があります。治療の決定に重要な要素は、がんの進行度と治療を受ける方の体力です。
一般的には手術でがんを取りきれる可能性が高ければ手術が選択されます。リンパ節転移がない非小細胞肺がんの場合、手術が最も確実に治療効果が得られる方法です。手術をしても小さな腫瘍細胞が体内に残ってしまう可能性があれば化学療法や放射線療法が併用されます。手術をしてもあきらかに腫瘍が残る場合は、手術はせずに化学療法または放射線療法が選択されます。最近では、放射線療法の技術が進んでおり、呼吸のタイミングに合わせて、多くの方向からがんにピンポイントに放射線を照射できる「定位放射線治療」も肺がんに対して行われるようになりました。早期の肺がんであれば治癒にいたる可能性があり、体力的に手術を受けられない方に朗報です。
もう1つの重要な要素は「患者に治療に耐えられるだけの能力があるかどうか」です。肺がんの手術でもっともダメージを受けるのは呼吸機能ですので、手術前の呼吸機能の評価は重要です。特に「1秒量」と呼ばれる、最大に息を吸った状態から最大努力で息を吐き出した1秒間の肺気量の値で評価されます。1秒量は年齢、性別、体格などで異なりますが、この値が1,000ccから800cc以下に低下すると酸素吸入が必要となる可能性があります。そのため、手術は1,000cc以上が見込まれる患者が対象となります。この1秒量は、喫煙によって低下します。
「高齢だから」と暦年齢のみで手術の可否が決まることはありません。また糖尿病や喘息などの合併症や、過去に心筋梗塞を起こした経験があっても、現在不安定な状態でなければ手術は可能です。
肺がんに対して、カメラを使用して小さな傷で手術をする胸腔鏡手術もあります。この方法は高度の技術が必要となるため専門医のいる施設に限られます。手術後の傷の痛みや呼吸機能の損失を小さくすることによって、高齢の患者さんや合併症を有する患者さんにも手術適応が広がる可能性があります。
肺がんの早期発見は検診から。確実で負担が少ない治療法の開発も進められている
画像診断が発達して早い時期の肺がんが発見されれば、負担の少ない低侵襲手術や縮小手術の適応が拡大します。また、進行がんであっても、複数の診療科が協力しておこなう治療(集学的治療)によって、治療成績が向上しています。
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