ウイルスや細菌などの感染で発生するガン
国際がん研究機構(IARC)の報告(2003年)によれば、全世界でウイルスや細菌などの持続感染が原因で発生するがんの割合は、18%程度と推計されています。
日本では、感染によるがんの占める割合は比較的高く、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)による肝がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸(しきゅうけい)がん、ヘリコバクター・ピロリ菌(Hp)による胃がん、ヒトT細胞性白血病ウイルス(HTLV-1)による成人型T細胞性白血病・悪性リンパ腫などが、大きな問題となっています。
そのほかに、EBウイルスによる悪性リンパ腫や鼻咽頭がん、ビルハルツ住血吸虫による膀胱がん、タイ肝吸虫による肝がんなどが知られています。発がんのメカニズム、持続感染者の発がんリスクは、感染体やそのタイプによってさまざまです。このような感染に起因するがんは、先進国全体では9%と比較的低いのに対し、発展途上国では23%におよびます。発展途上国では感染が広がりやすい一方で、対策が遅れがちな状況を反映しているのでしょう。
日本では、胃がん、肝がん、子宮頸がん、成人型T細胞性白血病・悪性リンパ腫は、ほぼ感染者から発生すると考えられています。胃・肝臓・子宮頸部のがんの年間罹患数(2002年の推計)は、それぞれ、106,800、40,600、15,500で、合計162,900となり、日本のがんの約4分の1以上を占めることになります。
この背景には、日本における感染者数の多さがあります。正確な統計はありませんが、Hpに感染したことがあるのは数千万人(50歳以上では8割以上というデータもある)と推定されます。HBV・HCVは発がんリスクとなる慢性感染者だけで数百万人、そして、HPVは多くのタイプが知られ、性交経験のある女性の大半に感染歴があり、その中にハイリスクとなるタイプの慢性感染者が紛れ込んでいると考えられます。
また、成人型T細胞性白血病・悪性リンパ腫は、年間1,000人程度が罹患していますが、日本全国で120万人程度がHTLV-1感染しているとの推計があります。
いずれも、感染者のうち実際にがんになる人は一部であり、感染予防とともに、感染者の掘り起こしとその発がん予防が重要な課題と認識されています。感染による発がんでは、どのような人ががんになりやすいのかを、病原体のタイプなどの違いから探るとともに、感染者側の生活習慣の違いからも探り、両者をつき合わせて考える必要があります。
Hpの存在が確認され、胃潰瘍との関連が、西オーストラリア大学のマーシャル教授とウォレン博士により報告されたのが1983年のこと(2人は、この功績により2005年にノーベル医学生理学賞を受賞した)。そして、IARCによって胃がんとの関連が確実なものとされたのは1994年と、その歴史はまだ浅いのです。
胃がんに罹患した約500人と罹患していない500人について、1990~94年の研究開始時点(胃がんに罹患していない状況)で提供していただいた血液のHp菌に対する抗体を測定して比較してみました。その結果、胃がん罹患者の99%から抗体が検出される一方、非罹患者でも90%に感染の証拠を認めました。つまり、Hp感染の既往がなければ胃がんにはほとんどならないのですが、感染者(現在の中高年の90%が該当)のうち胃がんになるのはごく一部ということになります。
Hpは抗生剤を用いた除菌が可能であり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍に対しては保険適応とされています。さらに、それによる胃がんの予防も期待されるところです。ただし、おそらくは幼少時に感染したであろうHpを、中高年期に除菌することによる胃がん予防効果の是非については、現在、研究が進められている段階です。これまでのところ、早期胃がんを内視鏡により切除した患者グループに対する除菌による胃がん予防効果を示す確かなデータはありますが、対象を一般住民にまで拡大して応用するためには、除菌による副作用の状況を含めて、さらなるエビデンスが待たれます。
胃がんについては、禁煙や減塩(特に、高塩蔵食品の制限)、野菜・果物の摂取などの確立したリスク軽減法もあるので、まずは、生活習慣の改善が試みられるべきではないかと考えています。また、感染していれば、胃がんに罹る確率が高いので、年1回の胃がん検診は欠かせません。
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