緩和ケアについて
がんを抱えた方の苦しみは、一言では言い尽くせないと思います。痛み、だるさ、食欲が落ちた、息切れを感じる、吐き気がする、お通じが不規則になった、などの「肉体的な苦痛」。
病気に関する不安やいらだち、眠れない、意欲がわかない、といった「精神的・心理的な苦悩」。経済的な問題や、家庭や社会における役割の喪失などの「社会的な苦悩」。
なぜこんな病気に苦しめられなければいけないのか、自分自身でできることが徐々に少なくなり他人に頼らなければ生きられなくなってしまった、未来への希望が持てなくなった、自分が生きている価値が感じられなくなってしまった、死後の世界とはどのようなものだろう、といった「スピリチュアルな苦しみ」。
病状が深刻になればなるほど、患者の苦しみの原因は多彩となり、複雑となっていくことが多いようです。
がんという病気はまた、患者と一緒に過ごす家族の方々の健康や生活にも多大な影響を及ぼします。さらに、不幸にして患者さんを失った家族には、大変な闘病の末に大切な人を喪失するという人生最大級の悲しみを残すこととなります。
皆様は「緩和ケア」をご存じでしょうか?
最近は新聞やテレビでも見聞きする機会が随分増えましたが、まだまだ社会に広く浸透していない言葉だと思います。
「患者さんという一人の人間」から「がんという疾患」を分離して消滅させようとする近代医学の歴史は、医療者の関心を疾患へと集中させ、病に苦しむ患者さんの全体像への関心を希薄にさせてしまったという負の一面を背負ってしまいました。
この近代医学の負の部分を補うべく、「治療困難な病を抱える人とそのご家族」を丸ごと受け入れて、様々な困難と向き合っていくための、そして人として精いっぱい生きぬくための支援をする、それが緩和ケアの理念です。
緩和ケアは、治療が困難な疾患をもつ患者さんやご家族の「つらさ」に焦点をあてて、「人としての様々な苦しみ(全人的な痛み)」を可能な限り和らげて、「その人らしく生き抜く」ための手立てを考え、家族の方々も含めて「生きがい」が感じられるような援助をしていくことを目標としています。
患者さんの病気がどの程度進んでいるか、治るがんか不治のがんか、余命がどのくらいあるか、といったこととは関係なく、がんのために何らかの「つらさ」を抱えているすべての方を応援するのが緩和ケアなのです。
この緩和ケアが普及し始める前の時代には、すべての抗がん治療が終わった段階で緩和ケアが始まっていましたが、現在ではがんの診断の時から一人一人の患者さんのニーズ(必要性)に応じて緩和ケアが同時に並行して進められるという考え方が広がっています。
欧米先進国にはやや後れをとっているものの、わが国でも緩和ケアを担う人材の育成に取り組んでおり、知識と技術は年々向上しています。現在、国を挙げて緩和ケアの発展を目指しており、どこにいても、どのような病状であっても、より安心して希望を持ちながら人生を全うできる地域ぐるみの緩和ケアの態勢づくりが始まっています。
あなたがもし、がん診療の担当の先生や看護師から、緩和ケアについての説明を持ち出されたとしても、どうか「私はもう見放された」とは思わないで下さい。
それは大きな誤解です。
良心的な医療者であれば、患者さんや家族の方々の「つらさ」を和らげたいと考えて緩和ケアのお話を持ち出すはずです。がん治療にあたる担当者だけで解決できる問題もあれば、緩和ケアの専門家への相談を勧めることもあるでしょう。
いずれにしても、がんによる苦しみは自分や家族のなかで必要以上に抱え込まないようにしていただきたいのです。緩和ケアは決してバラ色の世界ではありませんが、少なくとも苦しみを分かち合える同志としての援助を惜しまずに努力してもらえるところです。
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